
FIREの話は「いくら貯めるか」ばかりが語られます。7000万、1億、4%ルール。
でも、実際に調べていて一番ゾッとしたのは、資産額の話ではありませんでした。
仕事を完全にやめた瞬間、健康保険と年金が全額自己負担になるという事実です。
しかも私の場合、妻は専業主婦。子どもは2人。つまり——増えるのは、自分の分だけではありません。
先に結論を書きます。
完全FIREとサイドFIREの差は、資産額ではなく社会保険です。
週に一定時間働き続ければ、保険料は会社が半分持ってくれて、家族の分も増えない。その境目が「4分の3」というラインでした。
目次
会社員のうちは気づかない「半分は会社が払っている」という事実
給与明細を見ると、健康保険料と厚生年金保険料が引かれています。それなりの金額です。
ただ、あそこに書かれているのは半分だけです。
健康保険も厚生年金も、会社と従業員が半分ずつ負担する(労使折半)仕組みになっています。つまり実際には、明細に載っている金額と同じくらいの額を、会社がもう一度払ってくれている。
この「見えない半分」が、会社をやめた瞬間になくなります。
完全FIREしたら、いくら払うことになるのか
会社をやめて、どこにも勤めない場合。加入するのは次の2つです。
① 国民健康保険
前年の所得をもとに計算され、自治体によって金額が違います。
ここが落とし穴で、やめた翌年の保険料は「働いていた年の所得」で決まります。収入がゼロになった年に、現役時代の所得基準で請求が来る。FIRE初年度が一番重いということです。
② 国民年金
令和8年度(2026年度)の保険料は、月額17,920円です。所得に関係なく、誰でも同じ金額。20歳から60歳まで払います。
ここまでは、調べればどこにでも書いてあります。問題はこの先でした。
見落としがちな落とし穴:増えるのは自分の分だけではない
会社員でいるあいだ、家族は「扶養」という仕組みに守られています。
ところがこの仕組み、健康保険と年金でつくりがまったく違います。そしてどちらも、自分が会社をやめた瞬間に使えなくなります。
健康保険:国民健康保険に「扶養」はない
会社の健康保険には「被扶養者」という制度があります。収入の少ない配偶者や子どもを扶養に入れられて、しかも——
何人入れても、保険料は変わりません。
わが家は4人家族ですが、私の給与から引かれている健康保険料は、独身のときと同じ計算式で決まっています。家族が増えても上がらない。これはかなり大きな話です。
ところが国民健康保険には、この「扶養」という考え方がありません。
収入がゼロの配偶者も、0歳の子どもも、一人ひとりが被保険者として扱われ、人数分の「均等割」がかかります。保険料は世帯主にまとめて請求されます。
つまり——家族が多いほど、保険料が上がる仕組みです。
わが家なら4人分。会社員のうちは「1人分の計算」で済んでいたものが、やめた瞬間に人数分になる。ここは完全に見落としていました。なお、所得が低い世帯や子どもの均等割には軽減制度があり、内容は自治体によって差があります。実際の金額はお住まいの市区町村で確認してください。
年金:妻の「第3号」が消える
年金のほうにも、扶養にあたる仕組みがあります。第3号被保険者です。
厚生年金に入っている人(第2号被保険者)に扶養されている配偶者は、この第3号になります。そして——
第3号のあいだ、保険料の自己負担はゼロです。
専業主婦・主夫の家庭なら、たいていこれに該当します。わが家の妻も、いま1円も払っていません。
ただし、ここが重要です。
第3号でいられるのは、配偶者が厚生年金に入っていることが前提です。私が会社をやめて厚生年金を抜けると、妻も同時に第3号の資格を失い、自分で国民年金を払う第1号になります。
妻自身は何も変わっていないのに、私がやめたというだけで、月17,920円が発生する。
なお、第3号になれるのは配偶者だけです。子どもは対象になりません。ただし国民年金は20歳からなので、子どもの年金保険料が発生するわけではありません。ここは安心していいところです。
まとめると、こうなる
| 会社員のいま | 完全FIRE後 | |
|---|---|---|
| 健康保険 | 家族4人を扶養に入れても保険料は変わらない | 4人分の均等割がかかる |
| 年金(私) | 厚生年金(半分は会社負担) | 月17,920円 |
| 年金(妻) | 0円(第3号) | 月17,920円 |
| 年金(子2人) | 0円 | 0円(20歳まで不要) |
国民年金だけで夫婦合わせて月35,840円、年間約43万円。これに4人分の国民健康保険が乗ってきます。
仮に7000万円を貯めて、年4%(280万円)を取り崩す生活をするとします。そこから国民年金の43万円と、家族4人分の国民健康保険が引かれる。取り崩し額のうち、けっして小さくない割合が社会保険料で消えていきます。
資産を1000万円増やすより、この固定費をどうするかを考えたほうが早い。そう思いました。
サイドFIREなら社会保険は続けられる|カギは「4分の3」
では、少しだけ働き続けたらどうなるか。
ここに明確な基準があります。
1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、その職場の通常の労働者の4分の3以上であれば、健康保険・厚生年金の被保険者になります。
週40時間が通常の職場なら、週30時間。1日8時間なら週4日が目安です。
このラインを超えていれば、会社の規模も、賃金額も関係ありません。無条件で社会保険に入れます。
そして社会保険に入っていれば、さっきの2つがそのまま維持されます。
- 健康保険=家族は扶養のまま。人数が増えても保険料は変わらない
- 年金=妻は第3号のまま。保険料はゼロが続く
完全にやめるか、週30時間働くか。その差が、家族4人分の社会保険料です。
週20時間でも入れる?「短時間労働者」の適用拡大
「週30時間も働いたら、FIREじゃないのでは」と思う人もいると思います。
4分の3に届かなくても、次の条件をすべて満たせば加入できます。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8.8万円以上(※後述のとおり撤廃予定)
- 2か月を超えて雇用される見込みがある
- 学生ではない
- 勤務先が一定の企業規模である
つまり週20時間=週2〜3日でも、条件が合えば社会保険に入れるということです。
制度は今、FIREを目指す人に有利な方向へ動いている
そして、ここが調べていて一番おもしろかったところです。
この「企業規模」と「賃金」の条件は、今まさに撤廃に向かっています。
| 時期 | 企業規模の条件 |
|---|---|
| 〜2027年9月 | 51人以上 |
| 2027年10月〜 | 36人以上 |
| 2029年10月〜 | 21〜35人も対象 |
| 2032年10月〜 | 11〜20人も対象 |
| 2035年10月〜 | 10人以下も対象(事実上すべて) |
さらに賃金要件(月8.8万円以上)は2026年10月に撤廃される予定です。最低賃金が上がったことで、週20時間働けば自動的に超えてしまうから、という理由です。
私が45歳になるころには、小さな職場でも週20時間働けば社会保険に入れる時代になっている可能性が高い。
サイドFIREにとって、これはかなりの追い風です。
退職直後の逃げ道:任意継続という2年間
もう一つ知っておきたいのが任意継続です。
退職しても、それまでの健康保険を最長2年間だけ続けられる制度です。
- 退職日までに継続して2か月以上加入していること
- 資格喪失日から20日以内に申請すること
- 加入できるのは最長2年
- ただし保険料は全額自己負担(会社負担分がなくなる)
任意継続なら家族を扶養に入れたままにできるので、家族が多い人ほど国民健康保険より有利になりやすい。ここは必ず比べたほうがいいところです。
20日以内という期限が短いので、ここだけは覚えておいて損はありません。どちらが安いかは人によって変わるので、退職前に両方を試算しておくのが確実です。
ただし任意継続が使えるのは健康保険だけです。年金は退職した時点で国民年金に切り替わり、妻の第3号も同時に終わります。
だから私は、完全FIREを選びません
ここまで調べて、結論が出ました。
私が目指しているのは45歳・資産7000万ですが、そこで完全に働くのをやめるつもりはありません。
理由は2つあります。
1つめ:制度上、そのほうが明らかに有利だから
週30時間働くだけで、健康保険は家族ごと守られ、妻の年金保険料も発生しない。しかも保険料の半分は会社が持ってくれて、将来もらえる厚生年金まで積み増しされます。
資産を削って社会保険料を払うより、働いて制度の中にいたほうが安い。それだけの話です。
2つめ:私は、働くこと自体は好きだから
これが本音の部分です。
私は働くのが嫌いではありません。むしろ好きなほうだと思います。手を動かして、誰かの役に立って、その対価をもらうこと自体に不満はない。
ただ、働く環境は自分で選びたい。
誰と働くか、どれくらい働くか、何のために働くか。今はそれを選べる立場にありません。選べないまま働き続けることが、しんどいだけです。
だから私にとってのサイドFIREは、「働かなくていい状態」ではありません。
働く場所を、自分で選べる状態。
そのときに何の仕事をしているかは、正直まだ決めていません。そのとき自分が出せる一番高い単価の仕事を選ぶつもりです。薬剤師を続けているかもしれないし、まったく別のことをしているかもしれない。
資産7000万は、そのときに「条件が合わないので断ります」と言うための土台です。ゼロにするための目標ではありません。
まとめ
- 会社員の健康保険・厚生年金は会社が半分払っている。やめるとその半分が消える
- ★健康保険:会社の健保は家族を何人扶養に入れても保険料は同じ。でも国民健康保険に「扶養」はなく、人数分の均等割がかかる
- ★年金:妻は第3号被保険者で保険料ゼロ。でもそれは夫が厚生年金にいることが前提。やめると妻も月17,920円が発生する
- 逆に4分の3(週30時間目安)以上働けば、規模も賃金も関係なく社会保険に入れて、家族の扶養もそのまま
- 週20時間でも条件次第で加入可能。しかもその条件は撤廃に向かっている
- 退職直後は任意継続(20日以内・最長2年)も選択肢。家族が多い人ほど有利になりやすい
FIREは「いくら貯めるか」の競技だと思われがちですが、実際には「やめたあと、いくら出ていくか」の設計のほうが効きます。
そして少しだけ働き続けるという選択は、思っていたよりずっと合理的でした。
具体的な金額の逆算はライフプランシートの記事に、実際にどうやって資産を作ってきたかは資産形成の記事にまとめています。
※この記事は2026年9月時点の制度をもとに、私自身が調べて整理したものです。社会保険の制度は改正が続いている分野であり、保険料額や加入要件は今後変わる可能性があります。また国民健康保険料は自治体によって大きく異なります。実際の手続きや金額は、年金事務所・お住まいの市区町村・勤務先にご確認ください。これは私個人の考えであり、資産形成の最終判断はご自身でお願いします。
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