
10月の給与明細を見て、「あれ、手取りが少し変わった?」と思ったことはありませんか。
給料は同じなのに、引かれる社会保険料だけが変わっている。その理由は、4月・5月・6月の給料にあります。
先に結論を書きます。
会社員の社会保険料(健康保険・厚生年金)は、4〜6月の給料の平均で、その年の9月から翌年8月までの1年分が決まります。
多くの会社では前月分の保険料を翌月の給料から引くので、変化が見えるのは10月の給与明細です。
つまり、4〜6月に残業が多いと、そのあと1年ずっと保険料が高くなるということです。この記事では、その仕組みと、知っておくと得をする・損をしないポイントを整理します。
目次
社会保険料は「標準報酬月額」で決まる
健康保険料と厚生年金保険料は、毎月の給料そのものではなく、「標準報酬月額」という区切りのいい金額をもとに計算されます。
給料をいくつかの段階(等級)に当てはめて、「あなたは月30万円の人」「あなたは月34万円の人」のように決める仕組みです。
保険料は、この標準報酬月額に保険料率をかけて計算します。そして会社と本人が半分ずつ負担します。
- 厚生年金:標準報酬月額 × 18.3%(本人負担はその半分)
- 健康保険:標準報酬月額 × 保険料率(加入している健康保険や都道府県によって違う。40歳以上は介護保険料も上乗せ)
なぜ4〜6月の給料で決まるのか
標準報酬月額は、毎年1回見直されます。これを定時決定といいます。
会社は毎年7月に、社員の4月・5月・6月に支払った給料を届け出ます(算定基礎届)。この3か月の平均をもとに、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額が決まります。
| 時期 | 何が起きるか |
|---|---|
| 4月・5月・6月 | この3か月の給料が計算の対象になる |
| 7月 | 会社が算定基礎届を出す |
| 9月分から | 新しい標準報酬月額で保険料が決まる |
| 10月の給料 | 前月分を翌月に引く会社では、ここで明細の金額が変わる |
※出勤日数が少ない月(支払いの基礎となった日数が17日未満の月)は、原則として平均の計算から外されます。
「給料」には残業代も通勤手当も入る
ここでいう「給料」は、基本給だけではありません。
- 残業代(時間外手当)
- 通勤手当
- 住宅手当・家族手当・役職手当 など
働いた対価として毎月受け取るものは、ほぼすべて含まれます。特に見落としやすいのが残業代と通勤手当です。
4〜6月の残業は、1年間ずっと効いてくる
具体的に計算してみます。
ふだんの給料が月30万円の人が、4〜6月だけ残業が増えて月33万円になったとします。健康保険の料率は、わかりやすく10%として計算します。なお、標準報酬月額は給料を決まった区切りに当てはめて決めます。月33万円は「33万円以上35万円未満」の区切りに入るので、34万円として計算されます。
| 4〜6月の平均 30万円 | 4〜6月の平均 33万円 | |
|---|---|---|
| 標準報酬月額 | 30万円 | 34万円 |
| 厚生年金(本人・月) | 27,450円 | 31,110円 |
| 健康保険(本人・月) | 15,000円 | 17,000円 |
| 合計(月) | 42,450円 | 48,110円 |
| 1年間の差 | 約6.8万円 | |
3か月だけ残業が増えた結果、そのあと1年間、毎月5,600円ほど多く保険料を払うことになります。ちなみに平均が32万9,000円なら区切りは32万円で、1年間の差は約3.4万円です。わずかな差で1段越えるかどうかが決まるのも、この仕組みの特徴です。
4月は昇給や異動があり、年度初めで忙しくなりやすい時期です。気づかないうちに、1年分の保険料を押し上げていることがあります。
逆に、7月以降の残業は保険料に響かない
では、4〜6月以外の月に残業が増えたらどうなるのか。
答えは、残業が増えただけなら、年の途中で保険料は変わりません。
年の途中で標準報酬月額が見直される随時改定という仕組みもありますが、これは基本給などの「固定的な賃金」が変わったときが条件です。残業代のように月によって変わるものだけが増えても、対象にはなりません。
つまり保険料だけで見れば、同じ残業でも7月以降のほうが軽く済むということです。
4〜6月が毎年忙しい仕事には特例がある
業種によっては、4〜6月が毎年決まって繁忙期になる職場もあります。その場合、条件を満たせば4〜6月の平均ではなく、1年間の平均で標準報酬月額を決めることができます。手続きは会社が行うので、気になる人は勤務先に確認してみてください。
ただし「保険料が高い=損」とは限らない
ここは公平に書いておきます。
標準報酬月額が高いと、保険料は上がります。でも同時に、受け取れるものも増えます。
- 将来の厚生年金:払った保険料に応じて増える
- 傷病手当金:病気やけがで働けないときにもらえるお金。標準報酬月額をもとに計算される
- 出産手当金:産休中にもらえるお金。これも標準報酬月額が基準
だから、保険料を下げるために働き方を無理に変えるのはおすすめしません。大事なのは「なぜ手取りが変わったのか」を自分で説明できることです。仕組みを知っていれば、10月の明細を見て慌てずに済みます。
上限がある:厚生年金は月65万円、健康保険は月139万円
標準報酬月額には上限があります。
| 標準報酬月額の上限 | |
|---|---|
| 厚生年金 | 65万円(2026年9月時点) |
| 健康保険 | 139万円 |
厚生年金は、給料が月65万円を超えると、それ以上いくら稼いでも保険料が増えません(そのぶん将来の年金も増えません)。
私は年収900万円・ボーナスなしなので、月の給料がこの上限を超えています。つまり厚生年金については、上限に張り付いている状態です。
2027年9月から、厚生年金の上限が段階的に上がる
ただし、この上限は変わることが決まっています。2025年の年金制度改正で、厚生年金の上限が段階的に引き上げられることになりました。
| 時期 | 厚生年金の上限 |
|---|---|
| 〜2027年8月 | 65万円 |
| 2027年9月〜 | 68万円 |
| 2028年9月〜 | 71万円 |
| 2029年9月〜 | 75万円 |
月75万円以上の給料がある人は、本人負担が月9,000円ほど増える見込みです。そのかわり、将来受け取る年金も増えます。
私もまさに対象です。「上限に張り付いているから、これ以上は増えない」と思っていたのですが、2027年からは増えていく。調べて初めて知りました。
同じ年収でも、ボーナスの有無で保険料が変わる
もうひとつ、あまり知られていない話があります。
標準報酬月額は毎月の給料だけで決まり、ボーナスは別枠(標準賞与額)で計算されます。ボーナスにも同じ料率で保険料がかかり、厚生年金は1回150万円が上限です。
この仕組みのせいで、同じ年収でも、ボーナスがあるかないかで厚生年金の保険料が変わることがあります。年収900万円で比べてみます(2026年9月時点の上限65万円で計算)。
| 年収900万円 | 月の給料 | 厚生年金(本人・年) |
|---|---|---|
| ボーナスなし | 月75万円(上限65万円で頭打ち) | 約71万円 |
| ボーナスあり(年4か月分) | 月約56万円+ボーナス225万円 | 約82万円 |
ボーナスなしの場合、月の給料が上限で頭打ちになるので、超えた分には保険料がかかりません。一方ボーナスありの場合は、月の給料が上限に届かず、ボーナスにもほぼ満額で保険料がかかります。
ただしこの差は、上限が75万円になる2029年9月以降は、この年収ではほぼなくなります。今だけの差だと考えておくのが正確です。
まとめ
- 社会保険料は4〜6月の給料の平均で、9月から1年分が決まる
- 前月分を翌月に引く会社では、10月の給与明細で変化が見える
- 「給料」には残業代や通勤手当も含まれる
- 4〜6月の残業は1年間効く。7月以降の残業だけなら、年の途中で保険料は変わらない
- 保険料が高いと、年金や傷病手当金などの受け取りも増える。無理に働き方を変える必要はない
- 厚生年金の上限は2027年9月から段階的に引き上げ(65万→75万円)
私は管理薬剤師として、スタッフのシフトを組む立場でもあります。自分の手取りだけでなく、一緒に働く人の手取りにも関わる話なので、今回あらためて整理しました。
会社をやめたあとの社会保険については、サイドFIREと社会保険の記事に、税金まわりの話はふるさと納税と医療費控除の記事にまとめています。
※この記事は2026年9月時点の制度をもとに、私自身が調べて整理したものです。保険料率は加入している健康保険や都道府県によって異なり、計算例は概算です。制度は改正されることがあるので、正確な金額は勤務先・日本年金機構・加入している健康保険にご確認ください。
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