
「年収の壁」と聞くと、103万円や130万円を思い浮かべる人が多いと思います。
でも実は、高所得の側にも壁があります。しかも103万の壁よりずっと知られていません。
私は年収900万円の薬剤師で、妻は専業主婦、子どもが2人います。まさにこの壁の手前にいる当事者です。
先に結論を書きます。
- 年収1,095万円を超えると、配偶者控除が3段階でガクッと減る
- 段を1円でも超えると、手取りが約3〜4万円減る瞬間が3回ある
- 子育て世帯は「所得金額調整控除」で崖が1,110万円にずれる
- 崖の区間は、増えた年収の約46%が税金と社会保険に消える(私の試算)
- だから「越えるなら一気に、越えないなら手前で止まる」が正解
目次
年収1,095万円の壁とは?|配偶者控除が消え始めるライン
配偶者控除は、収入の少ない配偶者がいる人の税金を軽くしてくれる制度です。
ところがこの控除には、本人(稼いでいる側)の所得が高すぎると使えなくなるというルールがあります。
判定に使うのは「年収」ではなく「合計所得金額」です。給料だけの人なら、年収から給与所得控除を引いた金額のことです。
| 本人の合計所得金額 | 配偶者控除(所得税) | 配偶者控除(住民税) |
|---|---|---|
| 900万円以下 | 38万円 | 33万円 |
| 900万円超〜950万円以下 | 26万円 | 22万円 |
| 950万円超〜1,000万円以下 | 13万円 | 11万円 |
| 1,000万円超 | 0円 | 0円 |
なお、配偶者控除を使えるのは配偶者の年収が136万円以下(令和8年分。令和7年分は123万円以下)の場合です。最近話題になった「103万円の壁の見直し」は、この配偶者側の壁の話。稼ぐ側の壁(合計所得900万・950万・1,000万円)は変わっていません。
年収850万円を超えると、給与所得控除は195万円で頭打ちになります。なので、給料だけの人の場合はこう換算できます。
- 合計所得900万円 = 年収1,095万円
- 合計所得950万円 = 年収1,145万円
- 合計所得1,000万円 = 年収1,195万円
これが「年収1,095万円の壁」の正体です。
「なだらかな坂」ではなく「3段の階段」になっている
表を見ると分かるとおり、控除は少しずつ減るのではなく、3回に分けてガクッと減ります。
そのため、段をわずかに超えた瞬間に税金が一気に増えて、手取りが逆に減ることが起きます。
私の家と同じ条件(妻は専業主婦・子ども2人)で試算すると、こうなりました。
| 年収の変化 | 手取りの変化 |
|---|---|
| 1,110万円 → 1,110.5万円 | 約3.2万円減る |
| 1,160万円 → 1,160.5万円 | 約3.8万円減る |
| 1,210万円 → 1,210.5万円 | 約3.8万円減る |
5,000円の昇給で、手取りが3万円以上減る。元の手取りに戻すには、さらに約5〜6万円の昇給が必要です。
子育て世帯は「1,110万円」から|所得金額調整控除で崖がずれる
ここが、ほとんどの解説で抜けているポイントです。
年収850万円を超えていて、23歳未満の子どもを扶養している人には「所得金額調整控除」という制度があります。
- 計算式:(年収 − 850万円)× 10%
- 年収1,000万円で頭打ち = 最大15万円
- 16歳未満の子(扶養控除の対象外の子)でも対象
この控除は合計所得金額そのものを下げるので、崖の位置が15万円うしろにずれます。
| 1段目 | 2段目 | 3段目(控除ゼロ) | |
|---|---|---|---|
| 23歳未満の扶養親族なし | 1,095万円 | 1,145万円 | 1,195万円 |
| 子育て世帯 | 1,110万円 | 1,160万円 | 1,210万円 |
我が家の場合、崖の入口は1,095万円ではなく1,110万円でした。
崖の区間は、増えた分の約46%が消える
階段の一瞬だけでなく、区間全体で見るとどうなるか。「年収が増えた分のうち、税金と社会保険に消える割合」を試算しました。
| 年収の区間 | 増えた分のうち消える割合 |
|---|---|
| 950万円 → 1,050万円(崖の手前) | 約33% |
| 1,100万円 → 1,220万円(崖の区間) | 約46% |
| 1,250万円 → 1,350万円(崖を越えた後) | 約40% |
面白いのは、崖を越えた後のほうが負担が軽いことです。
崖の区間では、配偶者控除が消えていくのと同時に、所得税の税率も20%から23%に上がります。ダブルパンチになるので、ここだけ負担が跳ね上がるんです。
ただし誤解しないでほしいのは、階段の直後の一瞬をのぞけば、年収が上がれば手取りはちゃんと増えるということ。「損」というより、増え方が鈍る区間です。
見落としがち:副業の収入も合計される
判定は「合計所得金額」なので、給料以外の所得も足し算されます。ブログやYouTubeなどの副業の所得もです。
私の場合、本業の年収900万円だと合計所得は700万円です。つまり、副業の所得が約200万円を超えたあたりから崖に入ります。
実は私は、この崖のことを前から知っていました。だからYouTubeは、たとえ収益化できそうでも、しないつもりでいました。
中途半端に収入を足すと、ちょうど崖の区間に入ってしまう。越えるなら一気に越えないと意味がない、と考えていたからです。
ブログは収益が育つまで時間がかかりそうなので、その時が来たら考えるつもりです。
iDeCoやふるさと納税では、崖の位置は動かない
「控除を増やせば崖を避けられるのでは?」と思うかもしれません。
でも、iDeCoの掛金・ふるさと納税・生命保険料控除・医療費控除などは、合計所得金額を出したあとに引く「所得控除」です。合計所得金額そのものは下がりません。
つまり、崖の位置を動かす効果はないということ。税金そのものは軽くなりますが、配偶者控除の判定には関係ありません。
ちなみに医療費控除とふるさと納税の関係は、こちらで詳しく書いています。
じゃあ、どうする?|越えるなら一気に、越えないなら手前で止まる
私の考えはシンプルです。
- 越えるなら一気に:目指すなら1,250万円以上。崖の区間を素通りする
- 越えないなら手前で止まる:1,100万円の手前で、残業や副業の量を調整する
- 一番もったいないのは、段の直後で止まること
なお、配偶者がパートなどで働いていて「配偶者特別控除」を使っている場合も、本人側の判定ライン(合計所得900万・950万・1,000万円)は同じです。
制度は、知っている人の味方をする
この崖を知ったとき、正直「そんなものだろう」と思いました。
制度は、全員にとって公平にはできていません。そういうものです。
だからこそ私は、制度の"継ぎ目"を知るのが好きです。iDeCoの受け取り方や退職金のように、知っているかどうかだけで手取りが変わるポイントは、意外とたくさんあります。
会社をやめたあとの健康保険と年金にも、同じような「知っている人だけが得をする」ポイントがありました。
社会保険料が決まる仕組みも、知っておくと残業のタイミングを考えられます。
まとめ
- 高所得側の年収の壁は年収1,095万円(子育て世帯は1,110万円)から
- 配偶者控除は3段階で減り、段の直後は手取りが約3〜4万円減る
- 崖の区間は、増えた分の約46%が消える
- 副業の所得も合計される。iDeCoやふるさと納税では崖は動かない
- 越えるなら一気に、越えないなら手前で止まる
※この記事の試算は、令和8年分の税制・給料のみ・賞与なし・社会保険料は概算で計算した目安です。実際の金額は、お勤め先の保険料率やほかの所得・控除によって変わります。正確な判断は、税務署や税理士にご確認ください。これは私個人の考えです。
参考:国税庁 タックスアンサー No.1191(配偶者控除)、No.1410(給与所得控除)、No.1411(所得金額調整控除)、No.1199(基礎控除)、No.2260(所得税の税率)
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