
緊急避妊薬、いわゆるアフターピルが、
処方箋なしで薬局で買えるようになった。
ニュースでは「便利になった」「女性の選択肢が増えた」と、
前向きな話題ばかりが流れている。
それはその通りだと思う。
ただ、売る側に立つ薬剤師として、
正直な気持ちを書いておきたい。
便利になった裏側で、現場は何を抱えているのか。
これは、その現場レポートだ。
■ 正直に言う。やりたくなかった
最初に本音を書く。
販売解禁が決まったとき、私が最初に思ったのは、
「また薬剤師の責任が増えるのか」だった。
緊急避妊薬は、特定要指導医薬品という特別な分類で、
研修を修了した薬剤師が、対面で、その場で飲んでもらう
(面前服用という)ところまで責任を持つ。
しかも扱うのは、避妊・妊娠・性という、
薬剤師の知識の中でも、正直かなり偏りがちな分野だ。
私は9年薬剤師をやってきたが、
この領域に自信があるかと聞かれたら、答えはノーだった。
そしてもう一つ、頭をよぎったこと。
──これ、男性の私じゃない方がいいんじゃないか。
不安を抱えて来店する女性に、
男性薬剤師の自分が、本当に寄り添えるのか。
これは今でも、答えが出ていない。
■ 「僻地に需要なんてあるのか?」という油断
研修はeラーニング(動画)で受けた。
内容そのものに大きなギャップはなかった。
ただ、受けながら私が思っていたのは、
「こんな田舎で、そもそも需要なんてあるのか?」
という、どこか他人事の感覚だった。
正直、自分が対応する場面なんて、
そう来ないだろうと思っていた。
その油断は、ある日の朝、あっさり崩れた。
■ 私が休みの日に、その問い合わせは来た
ある朝、私の薬局に、
緊急避妊薬を求める問い合わせが入った。
問題は、その日が私の休みだったこと。
そして、当局で緊急避妊薬の研修を修了している薬剤師は、
私ひとりしかいなかったこと。
つまり──
私が局にいない限り、その薬は売れない。
緊急避妊薬は、性交後72時間以内、
1分1秒でも早く飲んだ方が効果が高い。
時間との勝負の薬を、
「担当者が今日いないので売れません」で終わらせる。
これが制度の穴だと、痛感した。
しかも、うちの薬局の周りには高校が多い。
差別するつもりは一切ない。
ないが、もし相手が高校生で、
本当に急いでいたとしたら──
そう考えると、休みの日でも気が気じゃなかった。
出先にいながら、ずっとそのことが頭にあった。
■ 結局、私は「売らなかった」
その日、結論から言うと、
私はその薬を売っていない。
私が局に行ける状況になかったからだ。
代わりにやったのは、
他に取り扱いのある薬局を紹介すること。
「うちでは今日対応できません。でも、ここなら買えます」
その案内で、その日は終わった。
売れなかったことに、無力感がなかったと言えば嘘になる。
でも、紹介できる先を知っていたから、
最低限、その人を放り出さずには済んだ。
■ だから私は「仕組み」で備えることにした
この一件で、私の中で答えが出た。
個人の頑張りで、緊急避妊薬は回らない。
必要なのは、現場の整備だ。
だから私は、すぐ2つの準備に取りかかった。
①紹介できる近隣薬局のリスト化
→ 「うちで無理でも、すぐここを案内できる」状態を作る
②販売チェックリストの作成
→ 急を要する場面で、確認漏れなく、最短で動けるようにする
緊急避妊薬は、迷っている時間が、そのまま相手のリスクになる。
だからこそ、迷わず動ける「型」を先に作っておく。
これは、私がいつも大事にしている考え方そのものだ。
感情やその場の頑張りで乗り切るのではなく、
仕組みで解決する。
困ったときに自分を守ってくれるのも、
相手を守れるのも、結局は「準備された仕組み」だ。
■ 便利の裏側にいる薬剤師の話
緊急避妊薬が薬局で買えるようになったのは、
間違いなく、いいことだと思う。
ただ、その「便利」の裏側には、
責任の重さに身構えながら、
それでも備えようとしている現場の薬剤師がいる。
たぶん、売るのをためらう薬剤師は多い。
知識的にも、心理的にも、深い分野だから。
私も、自信満々で「任せてください」とは言えない。
でも、目の前に困っている人が来たとき、
迷わず動ける準備だけは、しておきたい。
それが、現場に立つ薬剤師としての、
今の私なりの答えだ。
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